
そんなある日、鶴田さんに病院のケアマネージャーから突然、電話があった。「在宅看護をしている家の玄関に、大きな犬がいて、吠えるし噛まれそうだし、その家に入れないので、なんとかしてほしい」とのこと。
すっ飛んで行ってみると、その犬は噛みつき犬で激しい気性。話を聞くと、その家には老夫婦が住んでいて、ご主人は、その犬と散歩をしているとき、犬に引っぱられて転び、頭を強打して入院中。その犬は家から脱走したこともあり、公園でよその愛犬家を噛み、警察に保護されたことも。その結果、いずれ処分しようということになっているという。
しかし、おじいちゃんが退院して帰ってくるまで、いや、帰ってきてからも、その犬をおじいちゃんにずっと見せてあげたい、というのがおばあちゃんの願いだった。
そこで鶴田さんは「1ヶ月間、お散歩のとき、しつけトレーニングをやります」と申し出た。というのも、鶴田さんはペットドッグトレーナーズ協会に登録している家庭犬の訓練士の資格をもち、警察犬方式のトレーニングができるからだ。そして1ヵ月後――。鶴田さんは、その犬を、おばあちゃんが車椅子で散歩に連れて歩けるほど、おとなしい犬に変身させたのである。
「今ではおじいちゃんとおばあちゃんが、その犬を囲んで、幸せそうに暮らしています。なんといっても、その笑顔を見たときは最高でしたね」と鶴田さんは口元をほころばせた。
「噛み癖を直してほしいという依頼は多いですね。僕は、行ってすぐに噛まれるんです。で、なんでこの子は噛むんだろうと考える。ストレスがたまっているのか。あるいは過去に虐待された経験があるのでは、とか。原因がわからないと解決できないですから」
噛み癖を直すトレーニングをしていると、その飼い主から今度は留守のときのお世話なども頼まれる。また「子犬を飼うんだけど、ケアもお願いできないか」や「年をとっちゃって、犬の世話ができなくなってきたが、どうしたらいいか」……などなど、鶴田さんには相談がひっきりなしのようだ。
それは、鶴田さんが犬の心の世話ができる人だから務まるのだろう。ただ単に動物が『好き』なだけではできない仕事である。また、鶴田さんのように、送迎やしつけなどを含めた多くの仕事をこなすペットシッターは数少ない。しかも、ペットシッターになるためには、まず資格を取得するか、研修を受けることが必要である。