水から始まる、豊かな生活マガジン クリンスイ・クラブ 2005年秋号 vol.21 c Rico.C.S
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01名水紀行下野下谷
02水の匠たち水の流れる牧場[斉藤 晶さん]
03水と上手におつきあい手作り水キムチのすすめ
04吉川ゆりのあれこれ健康コーナーウォーキング
05体験レポートウクレレに挑戦!
06温故知水「湖にうつる紅葉を見にいこう」
07杉井明美の「季節を探しに〈続・実践編〉」
08世界の水〈第11回〉
09Enjoy!アウトドア〈第10回〉
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水の匠たち
斉藤牧場
北海道旭川/斉藤牧場  斉藤 晶さん
大自然の水があふれる山の牧場
 「ここはね、どうにもならない岩ばっかりの山だったんですよ」
 そう言って笑う斉藤晶さんの言葉とは裏腹に、まるで絵画のような景観が広がっている。青々と枝を伸ばす白樺やクルミの木、春には桜、秋にはモミジが彩りを添える木々の間には、緑がまぶしい芝生のじゅうたん。そこかしこでこんこんと泉も湧く桃源郷のようなこの地は、晶さんが一代で築き上げた山の牧場だ。ここには、数々の賞に輝く晶さんの歴史があった――
■北海道開拓時代

 山形の農家に育った斉藤晶さんは、19歳のときに開拓団の一員として単身北海道へ入植した。しかし戦後の混乱のなか、最後に割り当てられたのは全く手つかずの岩山だけ。笹ばかりがうっそうと茂るこの地は誰の目にも農耕不適地と映ったが、晶さんは持ち前の不屈の精神でたったひとりこの地に挑んだ。
「せっかく実った作物も、ウサギや野ネズミに食われちゃって何にも残んなくってね。失敗の連続でしたよ」
  何を植えても思うように育たない。それでも粘り続けた晶さんだったが、岩が多く、傾斜も大きい山地での農業には限界があった。
「“もうだめだ”と思って山で寝転んでいたとき、気づいたんです。自然に立ち向かうんじゃなくて、その力を生かせばいいんじゃないかって。こんな岩山だって、虫も動物もみんな悠々と暮らしている。あくせく働きながら何ひとつ収穫することもできないのは、人間だけじゃないかってね」
 晶さんがあみ出したのは、牛の歩き回る性質を利用した機械を使わずに土地を耕す方法。笹を刈って火入れを行い、その後に牧草の種をまいて牛を入れる。すると牛が種を地中に踏み入れ、大地に根付かせる。また生命力の強い雑草は牧草よりも早く伸びるので、牛はそこから先に食べ、3年もすれば笹薮が見違えるような牧草地に変わるのだ。
岩ばかりだった土地が、晶さんの手によって青々と牧草の茂る美しい牧場に
斉藤晶さん
■国も認めざるを得なかった牧場

 当時国の奨励する方法と違ったこのやり方に、賛同する人は少なかった。補助金が出なかったり、抵抗も受けたそうだ。しかし晶さんは自身の理念を追求。ある日酪農先進国であるニュージーランドの学者が日本へ招かれ、もともと5分の予定だった斉藤牧場の視察が2時間以上に延びたのは、そんな矢先だった。
「その偉い学者が、国の視察団に“ここはすごい牧場になる”って太鼓判を押したんですよ。長いレポートも書いてくれてね」
 家畜を使うこの方法は、「蹄耕法
(ていこうほう)」と呼ばれ、実は酪農の盛んなニュージーランドでは古くから行われていた。これがきっかけとなり、晶さんは農林大臣表彰をはじめ、さまざまな賞を受賞することとなる。いまも日々刻々と変わる自然に耳を傾け、独自の感性を磨くのには余念がない。
「最近の牧場では邪魔だからって角やしっぽを切ってしまったり、乳量を多くするために運動もあまりさせないなんていう酪農が主流なんですよ。でも、そんなのが牛にとっていいわけはないんです」
 ここでは角も尾もちゃんと備わった牛が自由に放牧されている。人工授精ではなく、すべて自然受精というのもいまでは珍しいことだ。結果、乳量はほかの牛の半分だが、寿命は3倍。山地を歩き回る健康な牛が、環境にも優しい安全な酪農を低コストで完成させたのである。
「やけっぱちにやってきたけど、いまは世の中の方が環境を考えるようになったでしょう。その意味で言ったら、斉藤牧場は時代の最先端にいっているわけですよ」
斉藤晶さん77歳、いまもバラ線張りや雑草刈りなどをして牧場を回る日々
クルミの木(写真・左)や木イチゴ(写真・右)など、自然の恵みも豊富
暑い夏も木蔭に涼むことができる牛たち。斉藤牧場で生まれ育った牛は、太くて短いがっしりとした足で、山地を自由に歩き回っている
■斉藤牧場に湧き水が出るわけ

 斉藤牧場がほかの牧場と一番違っている点は立木の多さだ。芝地を少し歩けばところどころに林があり、大地にしっかり根をはって水をたたえている。おかげで牛たちは夏の日差しを避け体を休めることができ、湧き出る泉にのどを潤し、水浴びをすることだっでできるのである。
「木を全部刈っちゃったらね、とたんに湧き水は干上がってしまいますよ。木は少なくとも全体の30%くらいは残しておかないと。水は牛や人間、牧草にも、とても大切なものですから」
 バッタが草間を跳ね、トンボが群れをなし、蝶やミツバチが蜜を求めて飛んでいく。一見どこの牧場でも見られそうな眺めだが、緑がありさえすればそこに自然があるわけではない。普通の牧場では牧草を育てるのに農薬を使うため、虫もあまり多くは寄ってこないのである。自然の力にこだわる斉藤牧場では、農薬も一切使っていない。雑草を取るのも一苦労だが、草木は実に生き生きと育つ。そこへ放牧される牛たちは自然の新鮮な草を食べ、きれいな湧き水を飲み、安全でおいしい牛乳を提供してくれる。ストレスが溶け込んでいない牛乳は、コクがありながらもあっさりとして、牛乳嫌いの子供もごくごくと飲みほしてしまうのだ。
「東京なんて虫も住まないところ、よく住んでいるなあ」
 とぼけてそんなことを言ってみせる晶さんは、77歳とは思えない軽い足取りで今日も山を登って行く。
牧場にはきれいな水がそこかしこに 湧き出している
水場に涼む牛。おいしい水がいつも飲める環境だ
7度ほどの湧き水はビールやジュースを冷やすのにぴったり。
働いた後、牧場の頂上での一服は最高だとか
斉藤牧場
TEL/FAX:0166-62-5814
※つながりにくい場合はFAXで
住所:北海道旭川市神居町共栄448
草地面積130ha、成牛・育成牛を合わせて100頭以上の牛が放牧される牧場。自然を軸とした酪農による安心でおいしい牛乳は、今後720ml・500円(送料別途)で全国に販売予定。
現在FAXにて予約受付中。
ほか乳製品の開発も期待されている。
斉藤牧場の美しい情景写真とともに、斉藤晶さんの元気が出る言葉がつまった
『いのちの輝き感じるかい』(斉藤晶著・地湧社)
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