和紙作家
堀木エリ子 さん
※音声が出ますので、音量にはご注意ください。
クリンスイ・ウォーターアライブ、今月は、和紙作家の堀木エリ子さんが語ります。
陶芸は、火の芸術といわれますが、紙すきは水の芸術です。
畳3畳分もある、大きな和紙を漉くときには、10人がかりでタイミングを合わせます。
人の力はせいぜい7割、残りの3割は水の力による偶然性が和紙の仕上がりを左右します。
100%思い通りに仕上がることはありませんので、思い通りにならない苦しみもありますが。
その偶然性は大きな楽しみでもあります。
水とともに作り出す、和紙の世界。楽しみながら、追い求めたいと思っています
中国から伝わった紙づくりの技術。
職人さんたちは、白い紙が神様につながると考えて、冷たい水に手を浸して原料を選別したり、何度も清らかな水にくぐらせて、和紙に汚れのない白さを求めてきました。
お金や品物を浄化するために、祝儀袋やのし紙を使ったり、年末には障子を貼り替えて、新しい年神様をお迎えする。
神社では、紙垂と呼ばれる白い紙を結界にしています。
和紙に込めた、神様や自然への畏敬と祈りは、いつまでも大切にしたい、日本人の心です。
私はもともと、アートや伝統工芸とは、あまり縁のない普通のOLでした。
あるとき、福井県・武生にある越前和紙の工房を訪れました。
冷たい水に腕をつけて、体から湯気を上げて作業をする
職人さんたちの姿を見た時の、神々しいほどの美しさは、大きな衝撃でした。
この素晴らしい技術と営みを世代に送らなくてはという思いから、和紙の世界に飛び込みました。
独学で創作活動をして、今年は30周年です。
今後は、後進を育てることが、大きな課題の一つです。
漉きたての和紙に、水滴を投げつけたり、いろいろな異素材を漉き込んだり・・、
新しい技術に挑戦し始めた当初、いつも周りからは、邪道だと言われました。
伝統と革新は対極にある言葉ではなく、革新の積み重ねが伝統になるのだと思います。
畳一畳分が限界だった大きさも今では10メートル以上の和紙が作れるようになって、立体的に漉き上げる技術も可能になりました。
伝統を未来へつなぐということと、革新を伝統に育てる、ということを両立して次世代へつなぐ。
それが、私の信念です。
かつては、日本中に、紙漉きを行う集落がありました。
より美しく、強い和紙を求めて、清らかな水とともに、紙作りの技術を高めてきました。
現代では、燃えない、汚れない、破れない、
変色しない、などの技術開発も進化しています。
2020年の聖火台を、和紙で作りたい。それがいまの、私の夢です。
日本のものづくりの可能性と、和紙という伝統素材の力を、
祈りのともしびとともに、世界に発信したいと夢見ています。